「レイズナー」私たちが学生だった頃はW杯といっても、あまり関係のない、といった扱いで、NHKの深夜にこっそりと放映していた頃でもありました。大瀧詠一の「ナイアガラ」ってどうしてレコード出さないでCDとテープだけなんですかねー?なんて話をしていた頃でした。(この見識は今ではアタリマエですが、当時はファン不在とか騒がれたものです) 「蒼き流星SPTレイズナー」はそんな頃作られました。土曜日の時間帯に華々しく復活したZガンダムに比べてその存在はやや霞んでいましたが、監督の高橋良輔の「思い」が一番濃く現れた作品でもありました。 主人公エイジはグラドス星と地球の混血児。グラドスの超科学力を持ってすれば地球はたやすく侵攻されてしまう...そのことだけを伝えるために単身彼は危険を冒して地球人とコンタクトを取るのですが...地球は米ソ2大勢力の冷戦の最中、宇宙に舞台を移してもその争いはとどまることがない...そんな情勢下、火星の国連ベースキャンプに研修に来ていた少年少女達がグラドスから逃れてきたエイジと出会うところからお話は始まります。 当時の日本は中曽根政権、アメリカの大統領はレーガン。経済的には劣勢だったアメリカ経済をレーガノミクスで再興し、軍事的には中曽根「浮沈空母」発言に見られるように、世界第2位の軍事費を拠出する国でありながら、一流国の仲間入りが出来ない日本を使ってアメリカの優位を保とうとする政策が進められていた時でした。バブルで乱舞する日本に入る前夜だと思っていただければいいのではないでしょうか? その5年前のモスクワオリンピックはアフガン侵攻をしたソ連に抗議するための政治的ボイコットが行われました。キューバ危機以来の緊張感が高まっていた時期でもありました。 エイジは言います。 「地球は狙われている」 メッセージは唐突でしたが、真実でした。 火星で出会った少年少女達をグラドスの襲撃から助けたエイジのメッセージは「真実」として受け入れられました。 しかし同じメッセージをソ連が、アメリカが受け入れるでしょうか?答えはNOでした。 「君の言ったことは真実だ。だが、それがいつでも受け入れられるとは限らない。なぜなら人間はプライドを持つ存在だからだ。プライドを傷つけられて尚、真実を受け入れられる人間はいない。」 アメリカに捕らわれたエイジは衣服を剥ぎ取られ、異星人サンプルとして研究調査対象として扱われます。しかしその間にもグラドスの侵攻は進んでいくのでした... 60年代から70年代にかけて学生運動を経験したという高橋良輔氏は、「真実を受け入れるプロセス」を体験的に学んでいたのかもしれません。学生の掲げるスローガンの一つ一つはピュアで正しいのですが、全体としてバランスに欠ける実現性の薄い内容が多かったのでしょう。「プライド」で生きる人間の姿は在る意味自己防衛的な本能に基づいた行動なのかもしれません。 副題の「走れ、メロスのように」は主題歌のテーマ(*1)でもありますが、太宰治の「走れ、メロス」から引用した話~主人公が友人との友情のために命の危険を冒してでも走り続ける~をまっすぐにしか生きていけないエイジの姿とダブらせているのですね。 「グラドスの侵攻を受けてはじめて私たちはアメリカでもない、ソ連でもない、1つの地球人としてまとまることが出来た。だが、時は既に遅かった...」 結局、グラドスに侵攻された地球はグラドスの駐留軍に支配されることになります。火星でエイジに助けられた少年少女達も3年の月日を経て逞しく成長しました。ある者はグラドス政府の官僚となり、またある者はレジスタンスとして地下活動に身を投じていました。 レジスタンスをしていた少年と少女はかつて火星で引率にあたっていた先生と出会います。先生もまたレジスタンスに加わっていました。 「あれだけ暴力はいけないと教えられた先生と一緒に、こうして武器の手入れをしている、というのもなんかヘンですよね?」 「そんなことないわ。自由を守るための闘いだけは(武器の使用を)認められているのよ。」 この辺りに高橋良輔氏の思想がよく現れているのではないかと思います。自分たちの生命を脅かされる状態であるなら、現実問題として武器の行使もやむを得ないという、かなりリアリストな考え方です。当時、野党第一党であった社会党(現・社民党)の情勢変化についていけない「非武装中立論」への揶揄もあったかもしれません。ただ安田講堂に立て籠もったり、浅間山荘事件を起こした犯人達も、やはり同じような詭弁を使うので、どういうシチュエーションなら赦されるのか?という点を追求していかないと、ある種の危険思想になってしまいます。ドラマの中のような状態なら、文句ないんでしょうけど(^0^;) 2002年6月15日(土) *1 主題歌の正式名称は「メロスのように~LONLY WAY~」といいます。 通りすがりの匿名さんが調べてきてくれました。(2002/11/28) |